〔 2018年2月号(2018年2月11日発行)・詩「壺」 〕

碧い風 目次



  
 壺

 雪が降ると
 町はひとつの底に置かれる
 大きな壺の底のようになった世界で
 人々は行ったり来たりする

 道をゆずったり
 ゆずられたり
 しながら

 雪の日にしか聞こえない音が聞こえる         
 雪の落ちる音
 雪のすべる音
 雪をほる音
 雪をたたく音
 人々の歩く音までが
 響いて
 よく聞こえる

 もしも
 壺の中をのぞきこむ者がいたならば
 驚くだろう
 壺の底が
 意外にも明るくて
 ぼんやりとした淡い光を
 放ち続けていることに

       (久野雅幸 詩集『帽子の時間』所収)
  
  
 
  
  

〔イラスト:梅津 大暉(たいき) さん 高校2年〕


〔作者からひとこと〕
 雪が降ると、町は雪が降っていないときとは違う印象になります。除雪の苦労や通行の妨げなど、歓迎できない事態が生じるわけですが、それはさておき、雪の町の印象を何とか言葉で表現したいと思った詩です。

〔作者からもうひとこと〕
 イラストは、雪の夜の情景を描いてくれました。外灯の光に照らされて降る雪のようすは、イラスト制作者にとって印象深いものであったのでしょう。
 詩の最終連も、私の中では、夜の「雪明かり」の情景をも含めてイメージされたものです。