〔 2018年11月号(2018年11月11日発行)・詩「軌跡」 〕

碧い風 目次



    
  
 軌跡

 強い風に
 思わず目をふせたあと
 ふっと
 目の前を横切った
 それを
 私は
 一瞬
 黄色い木の葉かと思ったが          
 そうではなくて
 それは
 黄色い蝶なのだった

 黄色い木の葉
 と
 黄色い蝶

 強い風が吹くと
 二つのものの軌跡は
 よく似て
 時に重なりさえするが
 風がやむと
 一つは落下し
 一つは飛び続ける




 しきりに
 黄色い木の葉の降る道で
 私は
 黄色い蝶の軌跡を追った

 命あるものの軌跡が
 さびしい風景の中
 どこまでも
 ひたむきに
 伸びていくのを見送った

 きっとあるのだろう
 どこかめざすところへ
 どうかたどり着いてほしいと         
 願いながら


              (久野雅幸)
 
  
  

〔イラスト:中村 真理子(まりこ)さん 高校1年〕


〔作者からひとこと〕
 詩は、読む人の経験に寄り添います。この詩であれば、「黄色い木の葉」が何の木の葉で、「黄色い蝶」がどういう蝶なのかといったことは、読み手の経験によって違ってきます。
 イラストは、実際にいる蝶にこだわらず、自分のイメージの中の蝶を、いわばデザイン化して、描いてくれました。

〔作者からもうひとこと〕
 詩集未収録の詩です。「碧い風」が初出です。