〔 2017年6月号(2017年6月11日発行)・詩「六月」 〕

碧い風 目次



  
 六月

 薔薇の木は樹木なので
 塀の中におとなしくおさまっていることを好まない   

 塀を越えて
 枝を伸ばし
 塀の外に
 花を咲かせようとする

 ―塀の中に閉じ込められているなんて、まっぴら。

 まるで
 おてんばで好奇心旺盛なお嬢さんのように

    *

 塀の外に散りしいた花びら―
 それを見て
 女の子が言った
 「ねえ、おかあさん。
  あの花びらは、うちのものなの。
  それとも、もう、よそのものなの。」
 母親が言った
 「そうねえ。
  きっと、
  はじめから
  風のものだったのだと思う。」



 そう言って
 その人は
 女の子の額に
 つばの広い白い帽子をかぶせた


         (久野雅幸 詩集『帽子の時間』所収)            
 
  
 
  
  

〔イラスト:小松 恋(れん)さん 高校2年〕


〔作者からひとこと〕
6月は、「バラの季節」。塀の外に花を咲かせたバラ、そして、塀の下に花びらを散らしたバラ。6月の街角では、 そんなようすを目にします。

〔作者からもうひとこと〕
 6月の町を歩いているとよく目にする薔薇の花のようすを、何とか詩に書きたいという気持ちから書いた詩です。
 イラストは、「女の子」に焦点を当てて描いてくれました。
 「つばの広い白い帽子」のイメージは、人によってさまざまと思います。