〔 2017年9月号(2017年9月10日発行)・詩「エノコログサのころ」 〕

碧い風 目次



  
 エノコログサのころ

 このごろ―
 道を歩いていると
 エノコログサを手にするひとと
 すれ違う

 下校途中の男の子がふたり
 エノコログサを手にしている
 それぞれが
 両手でプロペラのように回したり
 相手の子をくすぐったりして

 犬を連れた婦人がひとり
 エノコログサを手にしている
 片手に二本のエノコログサを持ち
 歩くにつれて
 揺れるがままに
 揺れさせて

 道端のあちこちで
 エノコログサが穂を垂れている
 この時節―

 あれはいったい
 だれがどういう理由で置いていったのだろう―      

 辻に立つ
 赤い帽子のお地蔵様の前に
 一本のエノコログサが置かれている

                  (久野雅幸)  
  
   
  

〔イラスト:高田 麻美さん〕


〔作者からひとこと〕
「エノコログサ」は、通常「ねこじゃらし」と言われる植物のことです。よく穂を抜き取って遊びますね。目立つのは、八月から九月。俳句では、秋の季語です。

〔作者からもうひとこと〕
 この詩は、詩集未収録の詩です。できれば、植物に焦点を当てた詩を集めた、次の詩集に、収めたいと考えています。
 イラストは、当時、制作を依頼した美術・イラスト部の顧問をなさっていた、高田麻美さんが描いてくださったものです。扉のイラストもそうですが、細やかでみずみずしい、独自の感性のはたらきがあって、すばらしいと思います。