〔 2018年1月号(2018年1月14日発行)・詩「手」 〕

碧い風 目次



  
 手
   ―十二月に


 春に
 舞い落ちる花びらを受けとめた手が
 いま
 風に乗った雪のひとひらを受けとめる

 夏に
 あわてて帽子の頭をおさえた手が
 いま
 コートのボタンを一つずつとめる

 秋に
 芝生からドングリを拾いあげた手が
 いま
 ミカンの皮をむき一房をとりわけて口に運ぶ      

 開いたドアを抜けて通りに出る―
 両手に荷物を持ったわたしの手から
 あなたは
 片方の手で荷物を受けとり
 もう一方の手で
 そっと
 わたしの手をとった

                 (久野雅幸)
  
  
 
  
  

〔イラスト:小松 恋(れん) さん 高校2年〕


〔作者からひとこと〕
 「直立二足歩行をする類人猿」という「人類」の定義があるそうです。だとすれば、「直立二足歩行」によって自由を得た「手」は、人間の体の部位の中で、「最も人間らしい部位」と言ってもよいのではないでしょうか。

〔作者からもうひとこと〕
 詩集未収録の詩です。「碧い風」が初出の場となりました。「1月号」掲載なのに「十二月に」という副題を持つ詩となったのは、「1月」の詩を作ることができなかったためです。
 「直立二足歩行」によって「手」がもつに至った、さまざまなはたらきを思いながら、詩を作りました。人間の「手」のはたらきの豊かさは、人間の「脳」のはたらきの豊かさと、直結していると言ってよいように思われます。
 イラストは、春夏秋冬で色を使い分け、詩の世界を雰囲気豊かに表現してくれました。