〔 2018年4月号(2018年4月8日発行)・詩「四月の風の中には」 〕

碧い風 目次



  
 四月の風の中には

 四月の風の中には
 見えない
 透明な少女たちがいる

 風の中で少女たちが踊る
 すると
 風が小さく渦を巻いては
 花びらを宙に吹き上げたりする

 少女たちの衣の裾が
 ふとした拍子に風の中にのぞく
 すると私たちは
 ―風がいまきらめいた
 と思う

 少女たちの衣の端が
 何かの拍子に私たちの頬に触れる         
 すると私たちは
 ―風がいま?をなでた
 と感じるのだ

 あなたのまとう
 やわらかな春の衣装の袖口が
 そんなに風にはためいているのは
 なぜですか
 あるいはそれは



 風の中の少女たちが
 あなたのことを誘っているのですか
 不思議なのは
 あなたが突然陽気にはしゃぎ回ったり       
 また不意に
 ひどくふさぎ込んだりすることだ


       (久野雅幸 詩集『旋回』所収)  
  
 
  
  

〔イラスト:梅津 大暉(たいき) さん 高校2年〕


〔作者からひとこと〕
 4月は、生活環境がそれまでと大きく変わることもある時期。この詩も、私が大学に入学して、住み慣れた天童市を離れ、一人暮らしを始めた時の経験がもとになっています。
 「明るさ」と「あこがれ」と「さみしさ」が混じり合った詩、と自分では思っています。

〔作者からもうひとこと〕
 大学に入学するにあたり、私は仙台市で一人暮らしを始めました。日本海側の山形県のそれとは異なる、仙台市の気象・風土に強い印象を受けました。「風がきらめく(光る)」とか「風が頰をなでる」といったことは、言葉としては知っていたものの、山形県で暮らしていたときには実際に経験したことはなく、仙台市で暮らす中で初めて経験して、「単なる比喩ではなく、実際にあることなのだ」と驚きました。
 イラストは、「風の中」の「見えない」「透明な少女」という、具体的に想像することが難しいのではないかと思われるものを、自分なりにイメージして描いてくれました。