〔 2018年10月号(2018年10月14日発行)・詩「天」 〕

碧い風 目次



    
  
 天

 ふと一枚の木の葉を手に取り
 光に透かして
 驚いた
 そこにもやはり
 いっぱいに枝を張りめぐらした
 一本のみごとな樹木が立っていること

 光に透かして見つめていると
 どんなに細かな一本の枝にも
 それぞれに
 しっかりと樹液が通い
 それぞれの枝がそれぞれの位置で
 自分の役割を果たしながら
 その一本の樹木の下には
 やはり一つの広がる世界の営みがあるのだ       
 とわかる
 そして思う
 木の葉の中の樹木にも
 それぞれに一つの空があって
 木は
 そこでもやはり
 一つの空に向かって
 枝を広げて立っているのに違いない
 と




 いま
 一つの小さな掌があって
 落ちてくる一枚の木の葉を受け止めようとしている   
 その中に立つ一本の樹木と
 立たせていた一つの空
 すなわち
 一つの天とともに―


      (久野雅幸 詩集『旋回』所収 一部改)
 
  
  

〔イラスト:市川 絢子(あやこ)さん 高校1年〕


〔作者からひとこと〕
 「一枚の木の葉」の中にある「一本のみごとな樹木」とは、もちろん、葉脈のことです。葉脈が「樹木」に見えたときには、本当に驚き、感動しました。
 イラストは、詩の根底にある樹木への共感を表現してくれました。

〔作者からもうひとこと〕
 詩「天」では、第2連までと第3連(「いま」で始まる最終連)との間に、時間の経過があります。こういうことは、本来、読み手の受けとめ方にまかせるべきなのでしょうが……。そのように読んでいただけるとうれしいので、あえて述べておきます。
 とはいえ、最終的な読み方については、もちろん、詩の言葉・表現・構造等をもとに読み手が決めるべきことであると考えます。