〔 2018年6月号(2018年6月10日発行)・詩「花をもつと」 〕

碧い風 目次



    
  
 花をもつと

 花をもつと
 そのことで
 茎はずいぶんと揺れるようになる

 穂をもつと
 そのことで
 茎はずいぶんと揺れるようになる

 通りがかった
 歩道のわきの草むらには
 花をもったヒメジョオンと
 穂をもったヘラオオバコとが
 いっぱいで

 風をとらえようとして
 身構えている
 それらの草花の
 造作(かたち)それ自体

 (造作によって表される意志に比べれば        
  言葉によって表される意志は
  なんとも
  饒舌で
  まよい
  うそをつくね)

 風に


 ヒメジョオンの花が大きく揺れて
 ふるえている
 ヘラオオバコの穂が大きく揺れて           
 ふるえている

 草むらに
 風が吹くたび
 草花たちの
 よろこびが
 草むらいっぱいに
 広がっていく
 のがわかる

 あのように
 私たちも
 風の中で
 ふるえていることができたら
 いいね

 おそれによってではなく
 よろこびによって
 ふるえているのだ

      (久野雅幸 詩集『帽子の時間』所収)
 
  
  

〔イラスト:T. Y. さん 高校2年〕


〔作者からひとこと〕
 「ヒメジョオン」と「ヘラオオバコ」を知らない方は、ぜひインターネット等で調べてください。どちらも道端によく生えている植物です。
 イラストは、「よろこび」を力強く表現してくれました。

〔作者からもうひとこと〕
 上記「ひとこと」では、「調べてください」と書きましたが、それぞれの画像を、次に載せておきます。向かって左が「ヒメジョオン」、右が「ヘラオオバコ」です。