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詩を書くということ


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「不安」を越えて(実にささやかな「ワンピース論」など)

 3月は、新年度のスタートを前に、普段とは異なる不安に直面する時期でもあるかと思います。新年度に身を置くことになる、新しい環境への不安です。新しい環境でうまくやっていけるのか、という不安をまったく感じないという人は、おそらく、いないと言ってよいのではないでしょうか。
 さて、「ワンピース」という漫画が、大人気です。「ゴムゴムの実」という「悪魔の実」を食べてゴム人間となった主人公ルフィーが、「海賊王」になることなることをめざし、「海軍」や他の「海賊」と戦いながら、未知の海を航海する話です。人気の理由は、いくつもあるわけですが、理由の一つとして、主人公ルフィーの人物像が、「不安から最も遠いもの」であるということがあげられるのではないかと思います。
 具体的には、①「海賊王におれはなる」という揺るぎない目標・信念と、目標達成に向けた自信をもっていること、②冒険が大好きで、危険や未知に対して「おもしろそう」と「わくわく」しながら積極的に向かっていく、無鉄砲で楽天的な性格、③自分の気持ちに正直に行動し、周囲への配慮や遠慮によって自分の気持ちを曲げるということをしない、率直さ、④肉を食えば相当なダメージからも立ち直ることができるというような、驚異的活力、⑤仲間への信頼。以上の①から⑤は、そのうちどれか一つでも持ち合わせていれば、「不安に打ち克つ」ことができるものではないかと思われます。それをすべて持ち合わせているのですから、ルフィーは、不安に対しては無敵の存在であり、「不安の対極に位置するキャラクター」と言えるのではないかと思います。
 大小の不安にさいなまれがちな日常にあって、ルフィーに感情移入すれば、不安などものともしない心理的な体験をすることができる、「不安から最も遠いもの」として痛快な体験を味わうことができる。そこに、「ワンピース」人気の、理由の一つがあるように思います。
 ルフィーならぬ我が身としては、①から⑤のうちのせめて一つだけでも身につけて、明日への不安に打ち克ちたいものです。


    そばに
      ―添い寝の子に
                       
 知っているよ
 早い時刻に
 一度ぐっすりと眠りについたあとにも
 夜―
 おまえは
 時に
 うっすらと目を開けて
 となりにちゃんと私が寝ているかどうかを
 (それはつまりおまえが眠りについた時と同じに)
 確かめては
 そこに
 確かに私がいると
 安心して眠り続けていること

 昨夜もそうだった
 風邪気味で
 夜更けに
 おまえが一度ひどくせきこんで
 目を開けた時にも

 そのかわりに
 おまえが目を開いた時に
 はたして
 となりに誰もいないのを知ると
 おまえは
 その時
 激しく声を上げて
 泣くのだ

 その時―
 世界がいったいどのようにおまえを不安にするのか

 子どもよ
 けれども
 そんな不安を抱えたままで
 生きていく人も
 あるのだ

 本当は泣き出したいのに
 声を上げて
 激しく泣いていたいのに
 それができないばかりに
 平然としたさまをよそおって
 今日も一日を生きている
 そんな人も
 あるのだ

 ああ そうして
 いっそう悲しいことには
 その人が
 たとえ
 どんなに激しく泣いたところで
 その声を聞きとめて
 慰めに来てくれる
 何ものも
 その人に
 ありはしないのだ

         (平塚志信『三人の日に』所収)
    
 

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