久野雅幸のページ
                
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十一月の詩

 
  十一月は、陰りと深みのある時節だと思います。
  

   十一月

 

  ―朱色の薔薇ならばまだ向こうの塀の中に咲いています。
  そう言って
  その人は
  角を曲がった

  部屋の大きさと形とに合わせてしつらえられた
  巨大な長方形のテーブルの上には
  たくさんの銀器が並べられ
  晩餐の支度がすでに整えられていることは
  誰の目にも明らかだったが―
  待たれているのは
  着席する人々ではなく
  テーブルのちょうど中央の位置にあしらえられた
  一盛りの薔薇の花に来る蝶々のほかにないということを
  その場にある
  すべてのものがわかっていた

  テーブルを囲んで
  給仕たちは
  みな一様に
  頭を下げて
  ながい祈りを祈っていた





  祈りの時間が
  彫像のように
  いつか
  崩れるまでの時間に
  替えられてしまうということに
  気がついている者はあったが
  どうすることもできなかった

   部屋はひそかに自分を嫌悪していた
   自分が自分の嫌いな部屋の主人にとてもよく似ていると思って    

  夕日でさえ
  この部屋の入り口を見つけることは
  難しいのだ
  かつて入り込んだ夕日が
  出口を見つけることができないまま
  いまも
  部屋の半分を照らしている

  ―ねぇ、花々はどうして私たちにとってさえ美しいのかしら。     
   そのせいで摘み取られてしまうというのに。

  どこかで





  明るい声が響いて
  一瞬―
  その場にある
  すべてのものが
  声を追ったが
  どこから入り込んだのか
  知りえたものは
  なかった


                          (久野雅幸)

  「一盛り」に「ひとも(り)」、「主人」に「あるじ」とルビ。「―」(ダッシュ)は、すべて、本当は二字分の長さです。
 


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