旧トップページ・№1〈2013年3月2日~3月7日〉

雪の日の夕焼け 木の枝の氷柱
  
   壺

 雪が降ると
 町はひとつの底に置かれる
 大きな壺の底のようになった世界で
 人々は行ったり来たりする

 道を
 ゆずったり
 ゆずられたりしながら

  雪の日にしか聞こえない音が聞こえる
  雪の落ちる音
  雪をほる音
  雪をたたく音
  人々の歩く
  その音までが
  響いて
  よく聞こえる

  壺の中をのぞきこむ者がいたならば
  驚くだろう
  のぞきこんで見た
  壺の底が
  意外にも明るくて―
  ぼんやりとした淡い光を
  放ち続けていることに

                      (久野 雅幸)