旧トップページ・2014年1月〈2014年1月1日~1月29日〉

 



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   野の高さ


  まだあちこちに雪の消え残る
  歩道のわきの草むらに咲く
  小さな青い花の群れ―
  高い木々の梢は
  冷たい風に吹かれながら
  その先でまだ懸命に春を探っているころ       
  地の上にはすでに
  早い春の花が咲き始めている―
  ということ

  ―まだ光ばかりがあたたかい
  と誰もが言うときに
  すでに地の上に咲く花々は
  あるいは
  光によってあたためられた
  地のぬくもりによって咲き始めるのか
  (ここには一つの天地の呼応があって)

  ―なるほど
  とぼくは思う
  ―この高さからなのだ
  と
  地に接するほどの高さに咲いた
  小さな花の群れを見ながら
  




  ―この高さから
   うつむいて歩いてはじめて気がつくほどの     
   この高さから
   春は始まり
   しだいに野は高くなっていくのだ
  と

  この高さから―
  やがて
  タンポポの高さへ
  タンポポの高さから
  夏のはじめには
  ヒメジョオンの高さへ
  ヒメジョオンの高さから
  秋には
  風に吹かれて揺れている
  マツヨイグサや
  セイタカアワダチソウの高さへと
  野の高さは
  しだいに高くなっていく

  私たちの足もとの高さから始まったものが      
  いつのまにか
  私たちの背丈も隠れるほどの高さへと
  高くなっているのだ






  その間
  私たちはいつも私たちのまなざしの高さで
  見つめ合ったり
  目をそらしたり
  心を引き寄せたり
  引き離したり
  しながら

  そして
  野の高さが
  もうこれ以上は高くならないころになると
  そうです
  ちょうど
  そのころに
  空が高くなるのです                


             (詩集『旋回』所収、久野雅幸) 


〔写真の説明〕
  向かって左はタネツケバナ、右はカタクリ。ともに早春の花ですが、山形では、開花は四月に入ってからのようです。
  平穏な春の訪れを願って。