旧トップページ・2015年3月〈2015年3月1日~3月31日〉



  


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    夕月

 
  夕月は
  夕方という時間の中にしかない            
  
  そのようにして
  夕方という時間の中に
  とりこまれている
  もの

  ―夕凪
  吹いていた風が
  とまった

  ―夕空
  色づいた雲が
  うごかない

  ―夕日
  まだ空に残っている

  ―夕焼け
  西の空に広がりはじめた





  ―夕景
  坂道の途中で
  犬を連れた少女がひとり
  立ち止まり
  空を見上げている

  ―夕食
  ウィンドウの中で
  しだいに
  席がうまっていく

  わたしたち
  人には
  わたしたちを
  夕方という時間の中にとりこむ             
  ことばが
  まだ与えられていないようだ

  いったい何が必要なのだろうか
  わたしたちが
  まよいなく
  ためらいなく
  すなわち




  夕月が
  夕月と呼ばれる
  自然さで
  ―夕人
  と呼ばれるようになるためには

  ―ごらん あそこにも ひとり 夕人がいるよ
  と
  通りを行く人たちに
  指さされるためには

  例えば
  立つことと
  横になることとの間で
  斜めになる―
  ということが
  もしも
  わたしたちに
  ゆるされていることであったとしたら          

                    (久野雅幸)
  *「―」(ダッシュ)は、本来二文字分の長さ。
  *「夕人」に、「ゆうひと」とルビ。




〔ページトップの写真〕
冬の太陽を、デザインガラスのガラス窓ごしに撮影したものです。向かって左は、2014年12月28日13時39分に、向かって右は、同日の16時1分に、それぞれ撮影しました。