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六月の詩

  六月は、雨を受けて、植物が一気に成長する時期。私たちにとっては過ごしづらい、じめじめした気候も、植物たちにとっては、成長を促す、望ましい気候であるように思われます。
  次の「木の下に」は、六月にはしっかりしたものとなる「木の下の暗がり」がモチーフになっています。
  話が飛びますが、「木の下の暗がり」と言えば、『和泉式部日記』の冒頭の一文が、とても印象的で、思い出されます。

    夢よりもはかなき世の中を、歎(なげ)きわびつつ明かし暮らすほどに、四月十余日(よひ)にもなりぬれば、木(こ)の下
    くらがりもてゆく。

  旧暦の「四月」は、初夏であり、新暦では、五月から六月になります。「木の下くらがりもてゆく」ようすが目につくなるのは、少なくとも山形では、六月かなと思われます。
  なお、「木の下」は、『和泉式部日記』では「このした」と読むようですが、下の詩では「きのした」と読んでください。


 木の下の暗がりが

 木の下の暗がりが
 しだいに大きく
 濃くなると
 見えるようになるのだ
 それぞれの暗がりの中に
 そこにいて
 じっとぼくたちの方を見つめている
 けものたちの姿が

 けものたちは
 決して
 そこから
 ぼくたちのいる方へ進み出ようとはしない

 ぼくたちのいる
 この場所は
 明るくて
 きっとけものたちには苦手なのだろう
 あるいは
 けものたちにはわかっているのかもしれない           
 この場所が
 いったん入り込んでしまえば
 けものたちがもといた場所には
 もどれなくなってしまう
 実に危険な
 場所であること




 もうすぐ見えなくなる
 けものたちの姿は
 梅雨時が過ぎて
 周囲を取り巻く山々の緑が一つながりの揺るぎない固まりとなって  
 繁茂するころには
 けものたちは
 まるで山中の深い森の中へみな入り込んでしまったかのように
 すっかり姿を消して

 そうして
 ちょうどそのころです
 木の下の暗がりの中に
 けものたちの姿ではなく
 立っている人の姿を
 しばしば見かけるようになるのは


  ※梅雨時・・・「つゆどき」とルビ。

                                  (久野雅幸)  
 



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